乳児股関節検診
乳児股関節の検査の重要性
昔は赤ちゃんの病気として非常に多かった先天性股関節脱臼(先股脱=せんこだつ)。
正しく広められたコアラ抱っこ等の育児法や、市販されている紙おむつ、おむつカバーの改良によって発生頻度は減少傾向にあります。しかし現在もなくなったわけではありません。
当院では体に無害なエコー検査で軟部組織の異常を見極める検査を行っております。
エコー検査を対象とするのは乳児股関節脱臼・単純性股関節炎・肩腱板損傷・軟部腫瘍・ガングリオン等の嚢胞性疾患です。
特に乳児股関節エコーについては、4ヶ月検診等で異常を指摘された乳児が三木市のみならず近隣地域から当院へ紹介され来院されています。
エコー検査
レントゲン検査では生後3ヶ月~4ヶ月の赤ちゃんの股関節の一部はレントゲンに写らない軟骨なので、脱臼等の診断が困難です。
これに対してエコー検査では、放射線を被爆させずに乳児股関節の状態を診断できます。
乳児股関節エコー結果による当院での治療方針
type | α角 | β≦55 | 治療 | ||
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Ⅰ正常 | Ⅰa:正常股関節 | α≧60 | β≦55 | 不要 | |
Ⅰb:正常股関節(移行型) | β>55 | ||||
Ⅱ | Ⅱa:骨性臼蓋の骨化の遅延(生後3ヶ月未満) | Ⅱa+:骨性臼蓋の骨化の遅延は生理的範囲内 | 50≦α≦59 | 改善傾向→経過観察悪化傾向→リーメンビューゲル装具治療 | |
Ⅱa-:骨性臼蓋の骨化の遅延は生理的範囲を超える | |||||
Ⅱb:骨性臼蓋の骨化の遅延(生後3ヶ月以降) | リーメンビューゲル装具治療 | ||||
Ⅱc:脱臼危険状態 | 43≦α≦49 | ||||
D | 骨頭が求心性を失った状態(臼蓋の形成不全は比較的軽度) | 70≦β≦77 | |||
Ⅲ脱臼 | Ⅲa:臼蓋軟骨に組織変化を生じていない(臼蓋軟骨部にエコーが出現しない) | α<43 | β>77 | ||
Ⅲb:臼蓋軟骨に組織変化を生じている(臼蓋軟骨部にエコーが出現する) | |||||
Ⅳ | 高位脱臼 | 入院のうえ牽引治療 |
- 生下時にtypeⅠは、以後正常関節となるので治療の対象にならない。
- 生下時にα角60°未満のtypeⅡ~Ⅳは生下時の段階ではその発達方向がわからないので、生後1ヶ月は一般的な指導のみとする。生後1ヶ月でtypeⅠかα角56°以上のtypeⅡa+は正常股となるので治療対象とならない。
- 生後1ヶ月でα角50°~55°までのtypeⅡa-は、自然経過でも正常となるものと異常となるものが混在している。生下時と比べ改善傾向は経過観察とするが、悪化傾向にあるものはリーメンビューゲル装具を装着する。リーメンビューゲル装具装着期間は定期的な超音波検査でα角60°以上の正常発達になる時期までとした。リーメンビューゲル装具を1ヶ月間装着し改善しないものや悪化傾向にあるものは、リーメンビューゲル装具装着状態をチェックまたは中止し、他の治療等を考慮する必要がある。
- 生後1ヶ月でtypeⅡc、Dはリーメンビューゲル装具治療を行う。装着期間、装着上の注意等は前述と同様。
- 生後1ヶ月でtypeⅢは、リーメンビューゲル装具を装着する。
よくある質問
※クリックすると回答が表示されます。
先天性股関節脱臼とは出生時または生後数ヶ月の間に、大腿骨の骨頭が寛骨臼(かんこつきゅう)から脱臼した状態のことです。
股関節脱臼には、完全脱臼・亜脱臼・臼蓋形成不全の3種類の脱臼の種類があります。
股関節脱臼は女の子に多く、男の子の約10倍といわれています。脱臼はあっても痛みはなく、通常この病気が発見されるのは4ヶ月健診の時が多いですが、なかには1歳前後まで見逃されてしまうケースもあります。
まず視診で下肢の動き・皮膚のしわ・角度・長さの左右差・触診で股関節の開排(外側へ広げる)制限やクリック(骨頭が寛骨臼内に戻されたときの音)を確認します。その後、乳児股関節エコー専用検診台で超音波検査をいたします。
その検査結果を元に、脱臼の程度をみて治療方針を決めていきます。
レントゲン検査は大腿骨の骨頭骨端核がはっきり出現してくる6ヶ月以上の乳児にのみ適応があれば施行いたします(6ヶ月未満の乳児は超音波検査のみ)。
完全脱臼や亜脱臼の場合はリーメンビューゲル(布製のバンドを肩からかけて足を吊るす装具)を装着し、脱臼が自然に治るよう治療します。
そこまで悪くない場合はコアラ抱っこやオムツ指導のみで経過観察します。これらの治療は早ければ早いほど、早く正常の股関節になります。